――朝、起きると今年最初の雪が降っていた。










 真冬の寒さを堪えると共に、長かった授業が終わった放課後。
 私は暇を持て余すように男子テニス部の部室で仁王や柳生達と寛いでいた。
「……何故、お前が此処にいるんだ?
 そして遅れて部室にやってきた真田に、開口一番に注意を受ける。
「だって寒いし、暇なんだもん」
「だからと言って何故此処に来るんだ。部外者は立ち入り禁止だ」
「部外者っ?」
 室内へ入ってきながら言い放つ真田に、私は傷ついたとばかりに座ってた机に突っ伏した。
「ヒドい……そんな言い方しなくても…」
「あーぁ。女の子をイジメちゃダメじゃろ、真田」
「な…苛めてなどいない!」
 泣き真似をしてる私に、向かいで座っていた仁王が加わったことで真田は判り易く狼狽えた。見えなくても彼がどんな顔をしてるのか手に取るように判った。
 確かに部員以外の者が部室へ入るのは出来ないし、それが同じ部活で男子部といえど同じなんだろうけど。
 ……もう既に何度もお邪魔しちゃってる私には今更かな。
「別にイイじゃろ。今日はもう部活がねぇんだから」
「そうですよ。君も、君と同じでテニスが出来なくて寂しいんですよ」
「うんそうだよ。多分」
「多分とか言っているぞ」
 フォローしてくれてる仁王と柳生に取り敢えず真顔で答えてやったら、珍しく真田に突っ込まれた。まぁ嘘ではないからいっか。
 今朝から積もるほど降っていた雪は止むことなく、景色を一面の銀世界へと変えた。
 お陰で部活は中止になり、こうして時間を潰すように私は男子部の部室にお邪魔しているのだ。
 当然、部活が休みだから他の部員達はいないし、仁王達が構わないと言ってくれたから入っている訳だけど。
「…そういえば、丸井達はどうした?」
 私達がいるのだから、当然来てるのだろうと思ったらしい真田は誰ともなく尋ねた。
 それに答えたのは窓の外へと指差した仁王。
「アイツらなら、元気なコトに雪と戯れてんぜ」
 見るとこの寒い中で丸井に桑原、おまけに切原までが降り積もった雪でせっせと楽しそうに雪ダルマを作っていた。
 元気が良過ぎるというか、呆れるほど元気が有り余ってるなー。小さいながらも着実に雪だるまが出来上がってるよ。
 私だけでなく、真田達も呆れた様子で眺めていると止んでいた雪がまた降り始めた。
 ひらひらと音もなく降り落ちる雪を見上げながら、私は微かに眉を顰めた。
「…どうした?
 その様子に気づいた仁王に訊かれ、私は答えずに立ち上がった。
「べーつに」
 軽く言いながら出口のドアへ向かっていく。
「何処か行くんですか?」
「ん。ちょっとね」
「待て、荷物はどうするんだ?」
 呼び止める真田に、ドアノブに手をかけて振り返った私は一気に外へとび出した。
「大丈夫!後でちゃんと戻ってくるからー!」
「ってコラ!ならせめてコートだけでも着て行かんか――!」
 真田の叫びを背中で聞きながら、私は笑いながら部室を後にした。
 外の空気はひんやりしていて足元がやけに冷たかった。




















 ザクザクと足音を鳴らしながら、校舎の昇降口前まで来て私は足を止めた。
 授業が終わってそんなに経ってはいないけど、この雪と寒さの所為か周りに生徒の姿はない。
 息を吐けばそれは白く、冷えた空気に空を見上げた。
 天から降ってくる粉雪たちをただジッと、私は見つめていた。
 校舎から現れた人影にも気づかずに…――。