*おまけ*





 同じ時刻の廊下で。
 教室で仁王とが話しているのを、扉の開いた隙間から覗く者がいた。
 早めに部活が終わり、二人を捜しにきた丸井と切原。
「……なんか、雰囲気がいつもと違うんスけど…」
「スゲー入りづれぇ…」
 脅かすつもりで中の様子を窺っていた二人は、仁王との会話の雰囲気に困惑していた。
 切原に至っては、話の内容がまったく把握出来ていないくらいだ。
 放課後とはいえ教室の前に坐り込んで、中を覗き見ている姿は怪しかった。
「――お前達、何をしている」
「「っ!!」」
 本人達も自覚はあるのだろう。急に掛けられた声に、飛び上がりそうになる。
「…っ何だ、柳かぁ脅かすなよ」
「声出しそうになったじゃないっスか!」
「だから何をしている?」
 振り返るとそこに立っていたのは柳で、不審そうな顔に丸井達は胸を撫で下ろす。
 再度尋ねる柳に、切原が人差し指を立てながら小声で言った。
「いや、今・中に仁王先輩と先輩がいるんスよ」
「だからどうした?何故、中に入らない」
「それが入り辛いっつーか、なんか難しい話してて…」
「それはお前が子供なだけだろう」
「なっ…ヒドイっスよ!」
 辛辣な柳に、あくまで声を抑えて言い返す。
 けれど横で騒いでいるのにも関わらず、丸井はずっと教室を見つめていた。それに気付いた柳が声を掛ける。
「どうした?丸井」
「いや……って、時々ああいう顔になるよな」
 呟く彼に、横の切原が不思議そうに訊く。
「どんなっスか?」
「上手く、言えねぇけど……大人びてるっていうか」
 それを聞いた柳は黙ったままだった。
 丸井も答えを期待していた訳ではない。寧ろ、自分には余り向けてはくれない表情なのは確かだ。
 だから、無意識に言葉が零れる。
「……仁王には、見せるんだな」
 その呟きに切原は黙って視線を向けるしか出来なかった。
 けれど柳は、目を伏せるように息を吐いた後、前へと進む。
「まぁ、俺の次にを判っているのは仁王だからな」
 彼は当然のことのように告げながら、教室の扉を開け放った。
 驚いている丸井と切原には構わず室内へ入っていく彼に、気付いたが立ち上がる。
「アレ?蓮二だ」
「…後ろに二人も連れてどうした?」
 仁王は窓際に立ったまま溜め息交じりに訊き、は柳の許へと駆け寄っていた。
 その時の、彼女の明るい表情の意味を。
 丸井と切原には、知ることが出来なかった――





 *おしまい*




書下ろし 08/07/22