皆森さんに連れられるように、行き交う人波をかき分けて。
 着いた先は、前に越前と来たことのあるショッピングモールだった。
 確かにここなら色んなお店が入っているから買い物には最適だと思いながら、そういえばあの時は用事を済ませただけで本屋以外行ったことないなーと私が考えていると。
 慣れた様子でエスカレーターへと進んでいく彼女の後を、慌ててついていく。
「えと、どのお店に行くの?」
 滑らかに上っていくエスカレーターで、前にいる彼女へ尋ねると振り向いて楽しそうに答える。
「雑貨屋サン。洋服も見て行きたいけど、今日は時間がないからね」
「そうだねぇ」
「これから行くお店はね、凄く可愛いモノが揃ってて気に入ってるんだー」
 本当にそこが好きなのだろう。嬉しそうに話す彼女に、私も楽しい気分になる。
 加えて、女の子とお買い物なんて余り経験がないからくすぐったく感じてしまう。
「ここだよー」
 何度かの折り返しを経て、向かった先はファンシーという言葉がよく似合う雑貨屋さんだった。
「わーこれは何とも…」
「可愛いでしょー」
 余りの可愛らしさに、女子であるにも関わらず入るのが躊躇われるなーなんて思っている私には構わず、彼女は店内へ入っていく。
 パステルカラーの商品が所狭しと並んでいる中、互いに店内を見渡しながら私はまた尋ねた。
「大体の目星とかつけてるの?」
「んー…ぬいぐるみとか良いとは思うんだけどー」
「それは好みが分かれるかもね」
 彼女は唸りながら、傍にあったクマのぬいぐるみを手に取って戻す。
 更に奥へと進んでいく様子に、これは時間がかかりそうだなぁと思いながら、自分も何か物色することにした。何もせずに待つよりはよっぽど有意義だろうし。
 日常雑貨が置かれている場所へ移動しながら、そういえば新しいタオルが欲しかったのだと顔を上げた時。隣りの店で展示してあった商品が目に入った。
 そこは男性向けの洋服店で、入口前に飾られたマネキンには落ち着いた感じのグレーのマフラーが巻かれていた。

 ――アレ、越前に似合いそうだな…。

 そう思っていた時に、彼の誕生日が近いことを思い出した。
 それが、クリスマス・イヴの日だということも。

 『あげたい人はいるんじゃない?』

 その、皆森さんの言葉が今更ながら蘇る。
 当日には渡せないかもしれないけど、誕生日プレゼントってことなら不自然じゃないし、あげられるかも。
 暫く立ち止まっていた私は、吸い寄せられるようにその店へと向かっていた。
 ……少し、耳が熱かった。










 店の前で待っていると、慌てたように皆森さんがやっと出てくる。
「ゴメーンっお待たせサン!」
 申し訳なさそうな表情の彼女は、片手にお店の袋を持って私の許へと駆け寄ってきた。
「良いの見つかった?」
「うんっすっごい迷ったけどねー」
「だろうね」
 あれから30分は経っているのだ。散々考えて吟味して選んだのだろう。そうして決めたモノだから、彼女は今・すっきりというか満足した表情をしていた。
「それで、どんなの買ったの」
 興味有りげに訊いてみると、彼女は人差し指を振って意地悪な笑みを見せる。
「それは内緒だよー楽しみがなくなっちゃうでしょー?」
「そうだけど、私は会には出れないから関係ないでしょ?」
「あ、そうだった…って、サンも何か買ったの?」
 言われて思い出したのか、少し落ち込んだ彼女は私が持っていたシンプルな色合いの紙袋を見て詰め寄る。
「もしかしてプレゼント?」
 訊きながらも顔が笑ってしまっている皆森さんへ、私も出した人差し指を口許へ持っていきながら。
「内緒、だよ」
 含み笑いで答えてやった。




















 買い物を終えて別れた時は、まだ夕焼け空になり始めたばかりだったけれど。
 陽が落ちるのが早くなった今の季節では、帰宅した時にはすっかり暗くなっていた。
 誰もいない家のリビングを抜けて、自室へ入った私は荷物を床に置く。
 コートを脱いでいた時、鳴り響く携帯にメールが届いたことを知る。開くとそれは皆森さんからで、今日の買い物に対してのお礼が綴られていた。
 律儀だなと思いながら返信を送ってから、買ってきた紙袋へ視線を移す。
 中にはあの時、越前にあげようと思って買ったマフラーが入っている。
 どう言って渡そうとか、彼はどんな反応をするだろうかと考えて苦笑した。
 けれどそれも直ぐに消えて、私はすくっと立ち上がる。制服も着替えないまま携帯を持ち、窓辺へと歩み寄った。
 昼間晴れていた空は、その色を深い紺碧に変えても澄み渡っているようだった。
 それをガラス越しに眺めながら、携帯である人物へかけ始める。
 コール音は暫く続き、繋がった先では聞き慣れた声色が流れてくる。
「―― 蓮二?…うん、久し振り」
 私の言葉に、彼の返答は相変わらず淡々として端的だ。
 それが既に懐かしい気がして、俯いていた顔を上げて夜空を見つめる。
 そして何か用事かと訊いてくる彼に、私は一度目を伏せてから紡いだ。

「あのね、蓮二。付き合って欲しい所があるの――」





 to be continued...





書下ろし 11/11/26