時とは常に平等で、残酷だ。


 それが優しさというなら、こんなに緩慢な地獄はない。
 いっそあの不変的な空のように、時が止まってしまえば良いのにと。

 まるで突然降り出した雨が、遠ざかるように。


 私は狡く、絵空事だと自嘲する。


 流れゆく時に対して、誰もが無力なのだというならば。
 それは同じ速度で廻り続ける世界に、置き去りにされているのだと。

 まるで思い出したように響く、遠雷のように。


 私は酷く、当たり前に自覚する。




















 僅かな曇り空の続く、秋の早朝。
 いつもの時間に起きて、いつも通りに学校へ行く支度を済ませたは、自宅の玄関で靴を履いていた。
 そう、いつもと変わらない登校風景。
 違うことと言えばテレビの天気予報を見忘れたのと、父親が珍しく見送りにきたことだろうか。
 普段は仕事で忙しく、母親と共に朝は滅多にいないのだが、今日は久し振りに三人揃って朝食を摂った。
 それ自体が珍しいことだから、今日は良いことが起こるかもしれないと彼女はなんとなくそんなことを思っていた。
「――
 名を呼ばれて振り返ると、そこに立っていた父親は顔色一つ変えず。冷静な声で告げた。
「新しい配属場所へ移る事になったから、お前も心の整理をしておきなさい」
 そう言って部屋へ戻る父親の背中を見て、始めは何のことか彼女にはすぐ判らなかった。
 靴を履き、鞄を持って家を出てから暫く歩いた時。
 漸く、父親の言葉の意味を理解して、曇り空を見上げて呟く。
「……今回は早かった、かな」
 いよいよ引っ越すのだなと考えた時、なぜか頭に浮かんできたのは。

 後輩である、越前リョーマの顔だった。










 過ぎ去りし時雨の音を以て