取り敢えず遭遇した侑士達と、成り行きで食事することになった私達は。 店内の座席に、三人ずつで座ることになったんだけど……。 「……何でこの並び?」 不思議な光景に、私は思わず呟いてしまった。 向かいに座るのは、菊丸を挟んだ越前と大石の三人。 そして私はというと、なぜか跡部と侑士に挟まれて座っていた。 「いやぁ、普通に考えたらこうやろ」 「いやいや普通って何?」 「そうだよ!何でがそっちっ?」 「俺らがアンタらと並んで座るより自然やろ」 身を乗り出して文句を言う菊丸に、まるで当たり前かのように侑士が言うから、まぁそうかもと私は納得してしまった。 何にしても、青学と氷帝のメンバーがこうして顔を合わせて食事をしているんだ。関係者から見れば違和感の塊だろう。 窓側で私の隣りに座る跡部はまだ納得してないのか、あからさまに不機嫌オーラを纏っていた。 「まだ何か不服なの?跡部」 日頃の経験のお陰か、この状況にもう順応した私は自分のトレイに置かれたポテトを摘みながら振り向いて訊くと、彼はわざとらしく溜め息を吐いた。 「当然だ。配置が気に食わない以前に、一緒に座らなきゃイイだろ」 「そやかて、折角・と会うたんやし。話したいやん」 「それはお前だけだろ」 跡部は不機嫌なまま、自分が頼んだコーヒーに口をつける。 気持ちは判るけど折角・皆で集まってるのに、一人が不機嫌だと空気まで悪くなる気がするなー。 そう思って、私は少し怒った素振りで彼に言い募る(実際、目前の菊丸達は気にせず食べてたんだけど)。 「もう、君が態度悪いと周りの空気も悪くなるでしょー。もっと明るくしてよ」 「出来るかっ」 「ちょっと、そんな強く反論しなくてもイイでしょ」 「そういうお前かて、昔はごっつ冷たかったよなぁ」 「え?」 予想してなかった切り込み方をする侑士に、思わず私は動きを止める。何を言い出してるのかな、君は。 「昔って?」 「そういや、お前らは昔馴染みだったか」 「そうなのっ?」 跡部の余計な一言に、菊丸が食いつくから嫌な予感が膨れ上がる。 「再会した時はたまげたわ。えらい明るくなってるんやもん」 「そりゃあ、変わりもするよ。何年経ってると思ってるの」 平静を装いながら、ジュースに手を伸ばす。 あんまり広げて欲しくないものだなー昔の話って。……あまり、思い出そうとしていなかった分だけに余計そう思うもかもしれない。 だけど、そんな私の思いも裏腹に興味津々な菊丸が質問する。 「なー昔のってどんな子だった?」 なんて質問するかなっ菊ちゃん! 「えらい無愛想やったな。よう言えば冷徹」 「…それってどっちも悪口でしょ?侑士」 「だってそうやったやん。子供にしては落ち着き過ぎとったし、全然笑いひんかった」 言われて思わず反論が出て来ないほどには、その自覚はあった。 多分・家庭環境もあったと思うけど、それは性格だと言われてしまえば納得してしまうような冷めた子供だった。恐らく、大人と接することが多かった所為か同じ年頃の子達が子供に思えて見下していたんだと思う。 それが気に入らないと、たまに男の子達と衝突したこともあったなーと思い出している隣りで、侑士は更に続ける。 「せやけど、弟にだけは甘かったよなお前は」 一瞬、心臓が止まったかと思った。 「しかも、弟が近所の子らに虐められてその子らにが仕返しをしたんやけど、それがまぁ凍りつくような表情とえげつない言葉攻めで…」 「わ―――っ!!」 スラスラととんでもないことをバラす侑士に、私は慌てて叫びながら彼の口を塞いだ。 なんてコト言い出すのよ君は〜〜っ! 確かに、真斗をイジメるなんて許せなかったから立ち直れないくらいに罵倒したコトはあったけど――って違う! 彼の口を塞いだまま無言で訴えるように侑士を睨んでいると、横からの視線に気づいて恐る恐る振り向く。 そこには驚いたような戸惑うような、複雑な表情の菊丸達。あぁっやっぱり困っちゃってるじゃーん! 「む、昔の頃の話だからねっ」 「あ、あぁ…」 慌てて言い訳をする私に、大石が頷くけど納得はしてないんだろうなー…。 そう思いながら、これまで黙ったままの越前が気になってチラリと視線を向ける。 彼はやっぱり黙ったままで、表情は少し不機嫌だったような気がした。うぅ、もしかして呆れられちゃったかなー…。 内心で項垂れていると、この事態を招いた侑士が口許を抑えていた私の手を掴んで訴えてくる。 「…えぇ加減、苦しいんやけど」 「そんなに動揺するとはな、これは良いことを聞いたぜ」 「うっさい!」 「ぐっ!」 何が嬉しいのか、勝ち誇ったように笑って言う跡部の脇腹へと、私は肘鉄を喰らわせてから侑士へ耳打ちをする。 「余計なコト言わないでよ侑士!真斗のコトは、越前しか知らないんだからっ」 「そうやったっけ?まぁ、いずれ知られるコトやろ」 「無責任なコト言わないでっ何でそんな話を持ち出したの?」 「…まぁ、俺なりの抵抗や」 「はぁ?」 菊丸達とのテーブルの距離はそんなに離れてないから聞こえてるかもしれないけど、私達が耳打ちしていることに気を遣ってか大石が切り出す。 「まぁ、ビックリしたけど。がこんなに動揺するの初めて見たな」 「そ、そうかな…?」 「あぁ。なぁ?英二」 「そだねー。なんか可愛かったよー慌てぶりが」 「えっ?可愛い?」 まさかそんなことを言われるとは思ってなかったから、変に声が上擦ってしまった。 確かにちょっと大袈裟に慌てちゃった感はあるけど。……だってビックリするよ、急にあんなコト言い出すんだもん。 もしかして、菊丸達は気を遣ってそう言ってくれたのかもしれないけれど。その時は動揺が先行して、いつものように返すことが出来なかった。 そんな予期せぬ出来事の連続で、その後の私は困惑しっぱなしで、何を話したのかよく憶えていない。 こんなことなら、素直に帰れば良かったかもと思う反面。 私の表情は、苦笑に近かったんだと思う。 †END† 書下ろし 11/05/26 |