様々な店が並ぶ、街の中央に建つショッピングモール。 そのエントランスへとやってきた私と越前は、建物の内部が書かれた案内図の前にいた。 「本屋は最上階かー」 背後を様々な人々が行き交う中で、自分の背より高いところに書いてある階の案内を見上げながら私は呟く。 「越前が行くショップはココだね」 「そうっスね」 スポーツショップと書かれた店名を指差し、越前が頷いたのを確認してから私は歩き出した。 「じゃあ、買い物が終わったらまたココに集合ね」 「え…分かれて行くんスか?」 なぜか驚く彼に、不思議に思った私は立ち止まって答える。 「だって目的は別なんだから、分かれた方が効率イイでしょう?」 自分は付き合って貰っている立場だし、それぞれに時間かけるよりそっちの方が全然イイと思うんだけど…。 私が当然のように言ったからなのかは判らないけど、納得したような越前は頷く。 それでも私の中で、名残惜しさもあったのだろう。去り際に、私は越前へと笑顔で伝えた。 「帰りは一緒に帰ろうね」 「…了解っス」 少し目を逸らしながら答えた越前を見送って、私はエスカレーターに乗った。 エレベーターの方が早いけど、こうして建物の中を眺めながら上がるのも楽しいからね。 何度かの上りと折り返しを繰り返して目的地へ着くと、そのフロア全部が書店なだけに広い所だった。 私は早速、目的を果たす為に参考書コーナーへと向かう。 所狭しと本が並ぶ通路で人もちらほらといるその向こう、驚くことに見憶えのある二人組が見えた。 「もう、本なんてどれも一緒じゃーん」 「ダメだぞ英二。こういうのはちゃんと選んで使い易いモノをだな…」 そこにいたのは制服姿の菊丸と大石の、部活は勿論・校内でも見慣れた二人だ。 珍しい所で会うものだと思いながら、私は二人へと近づいた。 「やぁ、お2人サン。いつも一緒だねー」 ちょっとフザけた感じで声をかけると、彼らは驚いて向き直る。 「あれ、じゃん!ちょう偶然」 「本当だ。お前も本を買いに来たのか?」 「うん。ちょっと参考書を買いにねー」 そう言って、近くにあった本を手に取って物色する。 塾に行っていない分、自分の手だけでは偏った勉強になってしまうから参考書を使ったりするのだ。 大石も割りとこの書店には来るようで、どんな物が良かったか一緒に探してくれていた。 一方で、参考書は愚か本自体に興味がないんだろう。私達の傍で菊丸は退屈そうに欠伸をしている。 「2人とも、ワザワザ参考書を買いに来るなんてマジメだにゃー」 「何を言ってるんだ、英二。俺達は受験生なんだぞ」 「そーだよーちゃんと勉強しないと」 「うへー」 嫌そうな顔をする菊丸の気持ちも判る分、私と大石は苦笑するしかない。 いくら青春学園が大学までエスカレーター式の学校とはいえ、受験はある。だから私達三年生は受験に備えて、勉学に励まなければいけないのだ。 まぁ、ついこの間まで部活動に精を出していたのに、勉強に本腰を入れるというのも難しいだろうなぁ。私はそうでもないけど。 ……私の場合、進学出来るかよりいつまでここに居られるか、が問題なんだけどね。 思い出して、私は無意識に少し俯いた。 両親の話では暫くはここに滞在すると聞いてはいるけれど、それも確証はない。 ここへ引っ越してきた時のように、急に両親が転勤することだって有り得るのだから――。 そんなことを考えて黙っていた私に、気づいた大石が心配そうに訊いてくる。 「どうした…?」 「え?いや、この参考書を買おうかと思って」 「じゃあレジへ行こうぜ。こういうトコって息が詰まるー」 「あはは」 沈んでいた心を悟られないよう、持っていた本を見せながら私は菊丸達と精算する為にレジへと向かった。 買い物が終わり、待ち合わせの場所へと戻ると。 なぜかそこには、不機嫌な表情の越前が待っていた。 「……何で増えてんスか」 「え、いや。偶然に会ってね」 突然現れた大石と菊丸に、何か不満なのか、目を逸す彼に私は首を傾げる。その間に、全くテンションの変わらない菊丸が越前にとびついた。 「2人でデートとかズルイぞ!おチビ」 「そ、そんなんじゃないっスよ!あと、重い!」 じゃれあっているように見えて、越前が激しく嫌がってるという構図は見慣れたものだけど。ここは公共の場だと、大石が宥めに入る。 「こんな所で騒ぐな英二、迷惑だ」 「そだよーもう用事は終わったし、帰ろっか」 「えー俺、腹減っちゃったから何か食べて帰ろうよー?」 そんな遅い時間じゃないしさー、と提案してくる菊丸に君はいつも食欲だね、なんて思う。まぁ、育ち盛りだからしょうがないのかな? 私はそう思いながらもう一人、育ち盛りで運動後だからもっとお腹が空いていそうな越前へ声をかける。 「だってさ、どうする?越前。君も部活後だからお腹空いてるんじゃない?」 「…まぁ」 笑顔で訊くと、頷く彼に菊丸が先頭を切る。 「よし、じゃあ行っくぞー」 誰よりも早く歩き出す彼に、私達は苦笑して後をついて行く。 ショッピングモールを出てから、近場ということで側のファーストフード店へと足を運ぶことになった。 店内は割りと混んでいて、レジ前には人が列を成している。 予想はしていたから並んで待つことにすると、隣りにいた越前が不意に呟いた。 「げ…」 「?どうしたの…」 いかにも嫌そうなその声に彼が向いている方向を見ると、列の中に一際目立つ背の高い制服姿の二人組がいた。見憶えのある制服に、見知った顔だった。 「あ…!」 思わず上げた大きな声に大石や菊丸、そして前にいる二人も気づいて振り返る。 「…あら、やないの」 「どうしてお前らがこんな所にいる?」 そう言って近づいてきたのは、いるだけで目立つ存在の氷帝学園三年の侑士と跡部。珍しい組み合わせに菊丸も声を上げる。 「そっちこそ、何でこんなトコにいんのー?」 「あん?飯食いに決まってんだろうが」 「まぁ、そらそうやな」 喧嘩を売られてる訳じゃないのに、不機嫌にも思える傲慢さを拭いきれない跡部に慣れているのだろう。興味なさそうに告げる侑士に続いて、私も挨拶をする。 「久しぶりだね、2人とも」 「あぁ、元気にしとったか?」 「うん」 会うのは夏休み振りだなと思いながら答えて、私は彼の隣りの跡部へと視線を向ける。 「…何だ?」 「いや、こういう店って君には似合わないなーと思って」 彼の特殊な雰囲気がそうさせるのか、ファーストフードの店内と跡部というのがどうしても結びつかなくて少し苦笑する。 「まぁ、俺様のような高尚な人間には凡人どもが通うような店は似合わないが、コイツがどうしてもと言うから…」 「――ウソつきぃな。跡部が腹減った言うから来たんやろ」 「あの、どうでもいいが、ちゃんと並ばないか?」 格好つけようとする跡部を、侑士が反論するけどそれ以前に。 容姿以前に、六人も店内の中央でたむろっていれば目立つのは当たり前で。 奇妙と迷惑が合わさったような視線を浴びる中で、正論を言った大石に皆は従った。 |