人数を考えた結果。
 を含めた、立海メンバーはファミリーレストランへ来ていた。
 本当は宿題を早く終わらせる為には、静かな図書館が理想的なのだが。
 このメンバーでは絶対に、静かには出来ないだろうと判断してのことだった。
 そして、それぞれ席に着いたところではご立腹していた。
「――だからね、丸井…」
 まるで感情を抑えるように、静かに目を伏せた後。
 カッと見開いて、目の前の丸井を指差す。
「何っで、早く終わらせないのよ!充分・時間はあったでしょうっ?」
「だぁから、部活で忙しかったんだってば」
「去年もそんなコト言って、私達に手伝わせたじゃないっ。いい加減・学習しなよ。あと、幸村近い」
「何だよ、俺だけじゃないだろ?赤也なんか全然終わってないんだぜ?てか、幸村近づきすぎ!」
「ちょっ…バラさないで下さいっスよっ!」
 丸井と言い合っている間にも、なぜか隣りに座る幸村はやたらと彼女に近い位置にいた。
 9人もいるので、比較的広い席に案内されているというに近すぎる。
「いやぁ、生がいると思うとついね」
「人を生鮮商品みたいに言わないでくれる?大体、君は宿題とかないでしょ」
 入院をしていたのだから、寧ろ宿題には縁がない筈だ。疑わしい視線を送るに、苦笑しながら筆記用具を取り出す。
「僕は柳にでも勉強を教えて貰おうと思ってね。ほら、欠席が長かったし」
 言われて確かに、と以外の者たちも思ったがその考えはすぐに消える。いくら遅れても、元々・幸村は頭が良いからすぐに追いつけるからだ。
 気を取り直して、は改めて状況を整理することにした。
「じゃ、どれだけ残ってるか教えて――真田は切原担当ね」
「えっ!? 何で俺だけ…」
「全然終わってないとか有り得ないから。真田にみっちり教えて貰いなさい」
「そうだな、俺がしっかりとお前の宿題を終わらせてやる」
 ここぞとばかりに追い打ちをかけてくると真田に、切原は泣きそうになりながら従うしかなかった。
 切原は彼に任せて、次はと仁王達へ目を向ける。
「君たちは……宿題が終わってないって感じじゃなさそうね」
「当たり前じゃ。ヒマだったから来ただけ」
「私も、まぁ時間があったのでついでに手伝いを」
「お、じゃあ俺の手伝ってくれるか?」
 なぜか態度の大きい仁王と控えめな柳生が答えると、横にいた桑原が彼に催促する。
 それぞれで勉強や宿題を始める彼らを見て、は大袈裟に溜め息を吐いた。それを見て、隣りにいた幸村が微笑む。
「お疲れ様」
「まったくだよ――って言っても、始めたばっかだからまた煩くなるだろうけど」
「あぁ、前もそうだったね」
 苦笑する彼女に、前にもこうして集まって宿題をやったことを思い出して幸村も苦笑する。あの時も同じように、丸井の提案で集まることになったのだ。
「あれは散々だった…」
「なんだよ。お前が文句言うからなかなか進まなかったんだろう」
「お前が溜めずぎなんだっ」
 当時のことを思い出して脱力する真田に、丸井も納得いかないのか文句を返す。
「あぁ、確か泊まったんだよな?真田ン家に」
「丸井たちはねぇ」
 仁王に答えながら、は紅茶に口をつけた。
 その時、こっちに着いてから忘れていた携帯電話を開く。すると画面には数件の着信とメールが届いていた。
 それを見て目を丸くする彼女に、気づいた柳が声をかける。
「…どうした?」
「いや、桃たちから着信があったみたいで……」
 無意識にそう答えたは届いたメールを読んで、脱力した。その様子に、周りが不思議そうにしていると彼女は呆れるというより疲れたように言った。
「青学の菊丸たちも、今から皆で集まって宿題するんだって…」
「ほら見ろ!」
「どこも同じなんだね」
 勝ち誇ったような丸井に、威張ることではないだろうと思いながら無視して残りのメールを確認する。
 すると一番最後に、珍しい相手からのメールが届いていた。越前からだった。
 少し驚きながらメールを開いてみると、そこには短い文面が綴れられていた。

 『…元気っスか?』

 余りにもシンプルで、それでいて不可思議な言葉には吹いてしまった。
「え?何?なんか面白いメールでもきてたのか?」
「……ううん。ちょっと、意味不明でね」
「はぁ?」
 笑いを堪える彼女に、彼らは首を傾げるしかなかった。
 こちらから越前にはメールを送っていないから、特に用件もないのにどういう文を打てばいいのか一所懸命考えた末のこの文面と思うと、には妙に可笑しかった。
 そして、嬉しかった。彼が心配してくれていることが。
 そういえば最近、顔を見てないなと考えながら彼女は思ってしまった。
 昔の仲間である立海メンバーの中に囲まれていながら、早く帰って青学の皆の顔が見たいと。
 それをしないのは自分の所為なのだが、思った自分の心境に驚いた。
 内心でそんなことを思っていると、幸村の隣りにいた柳が不意に口を開く。
「――精市。勉強だけじゃなくて、とどこか遊びに行ったらどうだ?」
 提案する彼に、周りが目を丸くする中。当の幸村が嬉しそうに同意する。
「そうだね。折角会えたんだし、デートしたいな」
「何・勝手なコト言ってるの」
 話を進める二人に、現実に引き戻された感覚のは真顔で反論した。
「えっじゃあ俺も行く!」
「お前は宿題を終わらせてからだっ丸井」
 加わろうと立ち上がる丸井に、真田が間髪入れずに頭を抑えて座らせた。
「そうだよ。まだ1つも終わってないでしょ」
「つっても、俺達はヒマじゃからなー…先に出とく?」
「何でだよっ?お前らだけズルイぞ!」
「自業自得だろう」
 既に宿題を終わらせてからのことを話し始めている彼らに、が溜め息をついていると。
 身を傾けた柳が、いつもの調子で言った。
「予定がないなら、帰りが遅くなっても大丈夫だろう?
 当然、最後まで付き合うだろう?とでも言うような彼に、気を抜かれた彼女は他のメンバーにも顔を向けた。
 期待のような、楽しそうに笑う彼らを見て。
 は前にもこんなことがあったなと思いながら、苦笑して彼らの申し出を承諾するしかなかった。




 †END†




書下ろし 10/10/06