指示通り、放課後に男子部へ向かった私は。
 乾や越前と並んで、地面に正座させられていた。


「…まったく。何を考えておるんじゃ、お前達は」
 その前には仁王立ちで、静かに怒ってる竜崎先生が佇んでいる。
 一方で隣りの乾は怒られてるのに澄ました表情で、もう隣りの越前は怒られてるのか不服なのか不機嫌な表情に挟まれて、私は複雑な気持ちだった。
「勝手に他校へ乗り込むなんて、わたしゃ許可してないよ」
「えぇ、俺の独断でした事ですから」

 少しは反省の色を見せなよ乾!嘘でもイイから!

 冷静というより単にマイペースな彼に、私は心の中で力一杯叫んだ。
 竜崎先生が言ってるのは先日、乾や越前と一緒に氷帝学園へ行ったこと――つまり偵察がバレたのだ。
 どこから知られたのかは判らないけど、その当事者の私達が呼び出されたという訳だ。
「はぁ…、お前さんが居ながら止めなかったのかい?」
「えっ?いえ…協力してと、言われたもので……」
「俺は強引に連れて行かれただけっスから」
 突然振られて言い淀んでると、逃れる為なのか越前が割り込んでくる。
 それには確かに異論なかった。実際に私が引っ張って行ったし、私達を遠巻きに眺めてた他のレギュラー達も越前の性格を知ってるから、納得してるみたい。
 そんな私達の様子を見て諦めたのか、竜崎先生は溜め息をついていた。無理もない。
「しかし先生、結果的には何も偵察は出来ませんでしたよ」
「あ、そっか。そーだよね」
 折れるのを待ってたのか、乾の言葉に私は思い出す。
 結局、あの日は見つかって何も偵察出来ずに氷帝メンバーと仲良くなっただけだった。
 でも確かに少し軽率だったかもしれない。他校に侵入しようとした訳だし、出会ったのが部員で良かったのかもしれない。
 今更になって反省してると、なぜか急にまた先生は怒り出した。
「そこじゃ、なぜ何も盗んで来なかったっ?偵察へ行ったならキチッと目的を真っ当せんか!」

 えぇええー!? そっちっ?

 間違ってはいないけど、無茶なことを言う先生に私やレギュラー達は一斉に驚く。どうやらそっちが本音だったらしい。
 言いたいことは終わったのか、先生は気を取り直して乾へ視線を向けた。
「…ま、乾のことじゃ。何かしらデータは得たんだろうが」
「そうですね…――な?越前」
「……そうっスね」

 アレ?何、そのぎこちない返事。

 なぜか視線を外す越前に、私は首を傾げる。
 けれど竜崎先生から部活に戻れとの指示で、乾はさっさと立ち上がって去っていく。
 偵察の立案者でお叱りを受ける元凶の本人が呑気なものだ、と呆れてると隣りの越前が自分を見ていたことに気づく。
「…何?」
「いえ……」
 怪訝に尋ねると彼は顔を逸らしたけど、どう見ても何かありそうな表情だった。
 少し待ってると、越前は意を決したのか振り向いて何か言おうとした時。それは頭上からの声に遮られた。
「――大丈夫?」
 未だに坐ったままの私に手を差し延べてたのは、楽しそうに私達を眺めてた不二だった。
 彼を見上げて、私は少し拗ねた表情をしながら不二の手を掴む。
「…地面に正座してたら痛いに決まってるよ」
「そうだね」
「それに、何であの日不二もいたのに君は怒られないの?」
 不二の手を借りて立ち上がり、文句を言ってみるけど彼は相も変わらず笑ってるだけ。
「僕は君に呼ばれて、助けに行っただけだから」
 ゆっくりと手を放す不二に、確かにそうだと異を唱えることは出来なかった。
 けれど、助けたというより余計な種を撒いてくれた気がするのは勘違いじゃないハズだ。
 まだ不服な表情をしてると、隣りで越前が立ち上がっていた。そういえば何か言いかけてたような。
「越前?さっき、何か話そうとしてなかった?」
 少し気を遣って笑顔で尋ねると、彼は不意を衝かれたような顔の後また視線を逸らした。
「……別に、何でもないっス」

 だったら何でそんな不機嫌な顔してんの。

 理由が判らなくて、益々首を傾げた。
 でも追求してもきっと彼が答えてくれないのは判ってたから、私は少し肩を竦めた。
 そして悪戯に笑いながら、越前にわざと抱きつく。
「わーんっ越前が冷たーい!」
「なっ…!」
「あーっまた先輩が越前に抱きついてる!」
 傷ついた演技をして抱きつく私に、食いついてきたのは桃城だ。出来れば大声は出さないで欲しい。注目を浴びるでしょうが。
「だって越前が素っ気無いんだもん」
「あーダメだよおチビ。を泣かせちゃ」
「泣かせてないっスよ!てか、泣いてないでしょ先輩!」
「あーバレたー?」
 注意する菊丸に、越前が必死に講義する。慌てちゃって可愛いなー。
 そんな騒いでる私達に、流石に竜崎先生から注意がかかった。
「コラお前達、いつまで遊んどるんじゃ!」
「ほーい」
 先生の一声で集まってた部員達が散って行く。
 遊ばれてた越前が大きく溜め息をついてたから、私はその頭をクシャクシャと撫でた。
「うん。いつもの越前に戻ったね」
「え…」
「――!お前も今日はこっちで特訓じゃ」
「えーっ?私ですかー!」
 越前に向けてた笑顔は、竜崎先生の掛け声で驚きに変わる。
 どうやら今日の部活は楽に終われないらしい。