鳳に連行されるかのように。 偵察がバレてしまった達は、渋々彼の後をついて行った。 何とか逃してくれるようが試みたけれど、爽やかな笑顔に流されてしまった。 というより、優しい言葉と邪気のない爽やかスマイルが逆に怖かった。 その黒さは不二に匹敵するかもしれない。彼の他にも厄介な人間はいるものだと、げんなりする。 隣りの越前はげんなりするどころか、もうどうでもいいのだろう。開き直ったように無表情だった。 乾はというと、この状況に動揺したような様子はない。寧ろ、堂々と氷帝テニス部へ行けることを好都合と思っているのだろう。 誰も気づかないが、乾の性格はポジティブに部類されるとは思う。 「お、鳳じゃねぇか。ドコまで行ってたんだ?」 公園を出てテニス部専用コートがあるという場所へ向かうと、乾から氷帝の部員数は二百を超えると聞いていたけどそこには数人しかいなかった。 鳳の話では今日はレギュラーのみでの練習らしい。 そんな中で外壁のようなコンクリートの壁が立つ傍にいた、小柄で髪を切り揃えた少年が鳳に話しかけてきた。 彼が答えようとするも、先にもう一人いた長い黒髪の眼鏡をかけた青年が達に気づいて眉を顰める。 「なんや?青学の乾にこないだの一年やん。何でコイツらがここにおんねん?」 「それがちょっと…」 「あれっ?女もいんじゃん!何?乾の彼女!?」 関西弁の彼の質問に、鳳が困ったように言いかけて先ほどの少年が遮る。 悪気はないだろうがじろじろと見られては決していい気分ではない。 だがは顔に出さず、お得意の笑顔を見せながら少し困った表情を作る。 「やめや岳人…困っとるやないか。すまんなぁ、躾がなってのうで」 「なんだよソレっ?」 制止する眼鏡の彼に、隣りの少年は不満げに返す。 けれど双方が大して気に留めてないところを見ると、彼らにとってはいつものことなのだろうと、は内心で笑いながら構わないとフォローした。 「あ、俺は忍足侑士。三年や」 「俺も同じく三年、向日岳人!お前は?」 足はコートへ続くという短い階段を下りながら、自己紹介をする二人に名乗らない訳にもいかず、仕方なく二度目の自己紹介をする。 「私は 。同じ三年だよ」 笑顔で答えれば、それに気をよくしたらしい向日が続ける。 「で、結局どうなんだ?乾の彼女なのか?」 「 そんな訳無いじゃない。」 「間違ってはいないが、何故満面の笑顔で力一杯否定する?」 「自分の心に訊いてみて?」 「あはは。さんって面白い人ですね」 不思議そうな乾に笑顔で答えれば、鳳が爽やかな笑顔をへ向ける。その様子に越前と忍足は顔を引き攣らせて、向日だけは首を傾げていた。 その状況にいた堪れなくなったらしい忍足が、話を切り替える。 「ほんで、何であんさんら青学がウチにおんねん?」 二度目の質問に、達が口篭る。 素直にここへ来た理由を話す気など彼らにはなかった。その理由も気持ちも判っている鳳が、代わりに答えようと口を開きかけた時。 観客スタンドがある所で立ち止まったは、目前に広がるコートを見て固まった。 目が、離せずにいた。 「先輩?」 それに気づいた越前が声をかけるが、の返事はない。 代わりに、彼の手を引いて駆け出す。 「越前、来て!」 |