Always?










 初夏を思わせる程の陽射しが照りつける、土曜の午後。
 いつものように部活での厳しい練習を終え、周りがそれぞれに身体をほぐしたり安堵の溜め息を零しながらコートを離れていく中、私は不二や越前と一緒に水飲み場へと向かっていた。
「暑いィ――!」
 力を込めて叫ぶ私に両脇の二人は驚く様子もなく、越前は呆れ顔で不二はなぜか長袖のジャージを着て平気そうどころか、白々しいまでに爽やかな笑顔だった。

 何で君はそんな涼しい顔してるの?
 てか、見てるだけで暑い!

「今日は晴れているからね」
「それにしたって暑過ぎ。まだ七月にも入ってないんだよ?」
 穏やかに返してくる不二に、私は憮然とした表情で答える。
 天候を恨んでも意味がないのは判ってるけどさ、この暑さじゃ誰かに文句付けたくなるのは当然じゃない?
「でも先輩達、全然汗掻いてないじゃん」
 そんな私達に左側を並んで歩く越前が、額にうっすらと汗を浮かべてぶっきら棒に言う。
 確かに越前というより他の部員達に比べて、私と不二は汗なんて殆ど掻いていなかった。その言葉に、不二と顔を見合わせてから。
「うーん…僕って、余り暑さとかじゃ汗を掻かない体質みたいなんだ」
「あ、私もそう。……けど、越前には今日の練習キツかったんじゃないのー?」
 不二の後に私は悪戯にラケットを持っていない方の腕を越前の首に回しながら、彼をからかう。
「んなワケないでしょ。くっ付かないで下さいよっ暑いんスから」
「テレちゃってー。ホントは嬉しいクセに」
「どっちも違うっス!」
 不満と困惑が混ざったような顔で、越前が離れようと身を引く。けれどそんな彼が可愛く思えてしまう私には逆効果で、更に自分に引き寄せてついついからかってしまう。

 普通、男子にこんなコトしないんだろうけど、越前ってなーんかちょかい出したくなるタイプなんだよねぇ。
 それにこの生意気さが憎たらしいながらも可愛くてしょうがない。

 口に出して言ったら本人が憤慨しかねないことを思いながら越前で遊んでいると、それまで横で微笑みながら私達を見ていた不二が、普段以上に穏やかな口調で言った。
「二人共。それ以上イチャつくつもりなら、僕も参加させて貰うから」

 何で!!?

 彼の邪悪なモノを感じさせる満面な笑顔に、私は思わず動きを止めて心中でツっ込む。多分、越前も同じことを思った筈だ。
 そして身の危険を感じた私は大人しく越前から腕を放す。その時、越前が私の腕を見ながら不思議そうに訊いてきた。
「…先輩、そのリストバンド。ちょっと大きくないっスか?」
「え?――あぁ、コレ?」
 越前の問いに、私は左腕に付けている黒いリストバンドを右手で掴む。
 確かに彼が言うように、手首に隙間が出来てしまうこのリストバンドは、私には少し大きかった。
「そういえば、さん。いつもソレ付けてるよね」
 不二も思い出すように私の腕を見つめる。
 それを聞いた私は、自分が思っていたよりこのリストバンドを大切にしていたことに気付いて、少し懐かしむ表情で呟いた。
「ちょっと、貰い物でね」
「 ――男だな。」
 直後、抑揚のないその声は、私達の後ろから聞こえた。
「「うわぁッ!?」」
「乾」
 突然の登場に私と越前は驚いて叫びながら振り返ったけど、不二だけは乾の出現に平然と対応している。…君は一体どんな図太い神経を持ち合わせてやがるんですか。
「と…突然背後から出て来ないで下さいよ、乾先輩っ」
「そうだよ!しかも気配まで消して」

 おまけに逆光付きだし!!

「見たところ、かなり使い込んでいるようだ。それに余り女子が好まない黒にサイズが大きいとなれば、男から譲り受けたとしか考えられないだろう」
 しかし私と越前が抗議するも虚しく、乾はただでさえどこを見ているのか判らない黒縁眼鏡を指で押し上げ、顔をここではないどこかへ向けて語り出す。
「「人の話を聞け!!」」
「まるで姉弟みたいだね」
 そんな乾に、私と越前は息ピッタリにツっ込む。その状況を母親(笑)のように見守る不二。

 ……まるでコントだよ…。