*おまけ*





 到着したテニス部の部室で、着替えを済まし外へ出ると。
 コートの入り口前で、さんが越前にちょっかいを出していた。
「こーら!越前。さっきはよくもシカトしたな〜」
「うわっ」
 ある意味、襲いかかるようにとび付いていく彼女に、越前は驚いて声を上げた。
 それをただ何の感情も含まない笑みで眺めていると越前と目が合った。
 すると彼は不機嫌な表情を浮かべたかと思うと、顔を逸らして彼女の手を掴む。
「わっ…ちょ、越前?」
 突然のことで戸惑うさんに構わず、越前は強引に彼女をコートへと連れていく。
 思いがけないその行動に少し驚きはしたが、僕はすぐに苦笑した。

 初々しいね、まったく……。

 内心で呟いて視線を落とした。さんを抱き寄せた時、彼が振り返りきる前にカーテンを引いて隠したとはいえ、彼女が見えなかった訳がない。
 ……きっとあれが、先刻の僕の行動に対する越前の反発なのだろう。彼にしては珍しいことだといえる。
「あ…あの」
 不意にかけられた躊躇いがちな声に顔を上げると、そこには教室からでも見かけた堀尾達・三人。いつもより恐縮しきった彼らに、笑顔で応対してみる。
「ん?何だい?」
「不二先輩っ……あのさっきの、コトなんですけど…」
 向き直って尋ねると、三人は何かを押し付け合っていたかと思うと、中央にいたおかっぱ髪の加藤がしどろもどろに僕を見上げて言う。それに一度首を捻った後、あぁと思い当たる。
 あの時、越前の他に彼らもその場にいた。彼らの叫び声で越前が振り返ったのだから、三人が目撃したのは間違いない。
 見てしまったのを悪いことと思っているのか、まるで教師に拳骨でも食らう覚悟をしているように縮こまっている彼らに、今日何度目かの苦笑いをしてしまった。
 それに気付いて見上げてくる三人に、僕は悪戯な笑顔で人差し指を口元に当てた。
「内緒だよ」
「「「ハ…ハイ!」」」
 元気よく返事をする彼らを満足げに微笑んでから、くるりと振り返る。
「―― それから、英二」
 背後を忍ぶが如く、そろりと横切ろうとしていた人物の肩をガシリっと掴む。
 それによってビクゥと固まる英二。構わず僕は、笑顔のまま背後から囁く。

 ……さんに抱き付かれたこと、忘れたとは言わせないよ。

「後で体育館裏に来て欲しいんだけど?」
「(ヒィィ――――っ!!!)」





 *おしまい*




初出 04/11/02
編集 07/10/03