――3.


 放課後。勉学から開放され、運動部員達が部活動に励む中。
 を含めたレギュラー達も、テニスコートに集まっていた。

「――ミクスドのペア決め?」
 乾から告げられた本日のメニューに、は小首を傾げた。その隣りで菊丸も同じように首を傾ける。まるで小動物のようだ。
「あぁ。が練習に参加してから一週間経つからな。そろそろ組む相方を決めても良いと思って」
「でも私が入るって、まだ決まった訳じゃ…」
「いや、95%の確率でお前がミクスドメンバーに入るのは確実だ」
「……どうして?」
 淡々とした乾の言葉に、は僅かに表情を強張らせた。
「元々、男女に差があるのは仕方ない事だが、それでも向こうとの実力差は歴然だ。……まぁ、ペア組みでは余り問題になる事はないしお前の実力なら申し分無いだろうが、相性というのがあるからな」
「じゃあ俺、と組みたいー!」
 確かに、とが内心で納得していると隣りにいた菊丸がじゃれつくように抱き付いてきた。
「うぅ…気持ちは嬉しいけど、重いよ菊丸……」
「ほら英二。余りさんを困らせちゃダメだよ」
「ぃたたたたっ!不二っ耳引っ張んなよ!!」
 笑顔で菊丸の耳を引っ張る不二の姿に、皆は鬼を見た。
「まぁまぁ不二…――英二も、自分が組みたいからってそう簡単に組めるものじゃないよ」
「そうだな、どちらかと言えば二人とも前衛タイプだ。組むのは難しいだろう」
 菊丸を宥める大石に、乾が続いて思考しながら言うと、はケロリとした様子で振り向いた。
「私はどっちも出来るけど?」
「だろうな。だが、本人に一番合ったポジションの方が実力を引き出し易いだろう。英二のプレイに付いていけるのは大石ぐらい、だな」
「ふーん…ま、いいや。試合に参加出来るなら私も嬉しいし」
 まるで何かを判っているかのような乾に、は少しだけ目を眇めていたがすぐに笑った。それによって生まれるであろう溝も気掛かりではあったが、にとってはテニスが出来ることの方が大事だったから。
「一応、は誰と組みたいんだ?」
 不意に大石から訊かれ、は考えるように天を仰いだ。
「う〜んそうだな……私は、越前とがイイなー!」
 そう言いながら引っ付いてくるのに、越前は慌ててなんとか身を引く。
「ちょ…腕引っ張んないで下さいっスよ!」
「越前はムリだな」
 けれどキッパリと乾に言われ、と越前の二人は一緒に目を丸くした。まるで姉弟のようだ。
「え、何で?」
「まぁ理由は色々あるが、越前。お前、ダブルスやった事あるか?」
「…………無いっス」
 居心地悪そうに答えた越前に、乾は「ほらな」と振り返って、は残念そうに肩を落とした。
 練習を積めばなんとか形にはなるだろうが、地区大会まで半月も無い上に彼にも男子部のレギュラー戦がある。時間が無いのもそうだが、元々越前にダブルスは向いていないのだ。
 ならどうするかと、は改めて考えた。
「じゃあ……乾の方が、誰と合うか判るんじゃない?私もまだそんなに皆のコト判らないし」
 乾は青学の頭脳だもんね、とは無邪気な笑顔を乾へと向けた。それを受けて、彼は持っていたノートを捲りながら。
「そうだな……不二。と組んでみてくれ。それで菊丸・大石ペアと試合をしてみよう。いいか?手塚」
「あぁ…」
 手塚の承諾の後、達がコートへとバラけて行く。と共にコートへ向かうのは指名された不二だ。
「宜しく、さん」
「うん。ヨロシクね、不二」
「ちぇー!不二ばっかズルイ〜」
「まぁまぁ英二」
 それぞれが位置につき、乾のコールで試合は開始された。
 流石、青学を代表するダブルスペアだけあって、大石と菊丸達のコンビネーションは完璧だった。
 けれど達も実力者だけあって無難に返していく。寧ろ、打ち合わせもしていない筈なのに、そのコンビネーションは良いように感じられた。
 試合が進むにつれて、それは増してきている。
「二人とも、息ピッタリじゃないか」
 外で見ていた河村達が興味有りげに驚く中、乾と手塚はただ黙って見ていた。
「――…どう思う?手塚」
「………」
 どこか含み笑いを感じさせる乾の問いに手塚は黙ったまま、コートを睨んでいる。
 それを横で見ていた越前が、ふと思って乾に訪ねた。
「何で、不二先輩なんスか?」
 拗ねているように聞こえるが、越前は普段からそういう喋り方だった。乾は彼に一瞥して、愉しそうに訊き返した。
「何故だと思う?」
「え…?いや……一番、仲が良い、とか?」
 困惑しながら思いついた答えを言ってみる。
 なぜそんなことを訊くのか不思議だったが、越前が思いつくのはそれ位しかなかった。
 が転入して一週間のあいだ、よく一緒にいたのは不二だからだ。それにダブルスの相性というのがそういうことなら不二と考えるのが妥当だ。
「そうか。越前はそう思うのか」
「…?」
 何か意外そうに納得している乾に、越前は怪訝な表情を向けていたが彼はそれ以上何も言わなかった。
 腑に落ちない気持ちでコートへ視線を戻すと、1ゲームが終わっていた。
「あーぁ!負けちゃった。――乾っゴールデンペアに勝てる訳ないよー」
 勝敗では菊丸達の勝利だったが、互いの実力では五分五分だった。文句を言っている割に、の表情は実に楽しそうだ。
「悔しいなら、そのまま続けて良いぞ」
「よっしゃ!菊丸・大石、次は負けないからねっ」
「ふふん。そう簡単には勝たせてあげないよーん」
 無邪気に言い合うと菊丸。その後ろで、不二と大石はやれやれといった風に肩を竦めていたがこちらも楽しそうだった。中々良いペア同士だ。
「……決定か」
「あぁ」
 手塚の呟きに、頷く乾の言葉を聞いていた越前は。
 その時ははっきりと、拗ねた表情をしていた。